≒草間彌生〜わたし大好き〜
他に類例を見ないであろう超凡無比の前衛芸術家、“宇宙初の天才”を自負する草間彌生の創作風景を記録したリアル・ドキュメンタリー。1957年に渡米してから17年間、主にニューヨークを拠点に創作活動を続け、数々のセンセーショナルなハプニングを展開した彼女の創造性とエネルギーは、単に前衛アートという利便性に長けた広義を拒絶し、ポップ・アートに批判的であり、一時期のミニマリズムやカウンター・カルチャーを置き去りにした。帰国後は80年代のポスト・モダニズムにも溺れることなく、近作におけるインスタレーションはより先鋭的で神秘に満ち溢れている。水玉、網目、男根、マカロニなど、表象と強迫観念を反復、増殖し続けることは自己の消滅を図り畏怖を克服するためでもある。彼女にとって描くことは生きること、生きることは描くことなのだ。
見る者を不安にすると形容されることもある作品群と同じく、カメラに写し出される彼女の実像からは強い不安を感じないではいられない。それは解りやすく言えば爛々と輝く水玉のドレスだったり、少女のような純真だったり、時に窮屈なほど自尊に満ちた言動であったり、当たり前に日常的な斟酌であったりする。そして何より受ける側の体力をも奪いかねないその超絶したカリスマに圧倒されるのである。
時代精神に惑わず常に前衛のパイオニアとして美術界をリードする俊英、今なお泉のように湧き上がるアイデアを抱えてカンバスに宙に舞う妖精を捕らえて“晩年”といった時間の概念で縛ることはもはやナンセンスでしかない。
撮影スタッフとの間に窺える距離や緊張は、実は不安にさせるもっとも顕著な要因であったが、完成後の試写で感涙にむせんだという草間氏の表情からすると、およそ1年半の長きに渡る撮影の内に信頼を得ることができたとみえて、50点のタブロー『愛はとこしえ』が完成すると同時にドキュメント・草間彌生がここに結実したとアピールできるだろう。
('08/日 '08/2月鑑賞 シネマライズ )
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